こぼれ話

2018.07.30

糸のみほとけ展のすさまじさ

奈良国立博物館にて「糸のみほとけ」展が開催されています。

タイトルの通り、糸(繍仏・刺繍の仏さま)が展示されています。

刺繍の仏様ってあまりなじみがない気がしますが、かつてそれは貴族の女性が好んで選んだ仏の作り方でした。

当麻寺のご本尊である当麻曼荼羅は中将姫という女性が織り上げたものですし、

中宮寺に伝わる「天寿国繍帳」は、聖徳太子の奥様が侍女に作らせたものです。

刺繍の仏というのは、当たり前ですけどひと針ひと針織り上げられたもの。

絵ならさっとひと塗りで終わるところが、ただひたすら織られたすごいものです。

その細かさ、繊細さは筆舌に尽くしがたく、選ばれた糸も鮮やかで美しいものでした。

織物ですから角度によっては光沢を放ち、絵画にはない深みがあります。

また刺繍の仏さまのお衣装に模様を施せば、それは立体の仏に服を着せているのと同じことになります。

こういう沢山の理由が繍仏をつくるきっかけとなったのでしょうが、見ていて気の遠くなるような作業があったのかと思うと

ノンビリとした鑑賞からは程遠く、背筋の寒くなるような凄みのようなものが伝わってきました。

 

奈良には古い仏が多く、それらが作られたことと残ってきたことを考えると、卒倒しそうなほどの人の手の歴史を感じます。

作るのも冨と力と執念のようなものが必要だったでしょうし、残すのにもすごい力がいったはずです。

現在の私たちは故人を弔う時、せいぜいお墓や仏壇をしつらえるくらいですけど、古代の人はお寺をまるごと作ったりしていたわけです。

それはお金があったから、権力があったから。

言葉で言うのは簡単ですけど、改めてその経緯を考えると半端ない執着心のようなもの。

「信仰」ということにかけた凄まじい念のようなものを感じずにはいられないのです。

 

繍仏は一枚のタペストリー(のようなもの)の中にそれを感じる、いちいち感じる、

本当に迫力あるものばかりでした。

 

糸ですから劣化のこともあり、現在ご本尊として拝むものはとても少ないです。

現存している繍仏も、しかるべきところで保管され、表にはなかなか出てきません。

それを見ることができるのが今回の展覧会です。

何を差し置いても見に行くべき会でした。

 

奈良国立博物館 「糸のみほとけ展」

平成30年8月26日まで

https://www.narahaku.go.jp/exhibition/2018toku/ito/ito_index.html