こぼれ話

2019.03.27

君の名は瀬織津姫

祓詞(はらえことば)というものがある。
神社で使われるもので、この言葉をとなえることによって、心身が清められるという。

奈良時代から宮中でとなえられてきたという「中臣祓」(なかとみのはらえ)は特にポピュラーで、大祓詞(おおはらえのことば)などとも言われている。
よく訪れる神社ではこれを毎朝奏上していて、それは回数が増せば増すほどご利益があるという。しかもひとりが唱えても1カウント。

3回繰り返せば3カウントという風に、その場にいる人の数だけ、唱えた回数だけ増えていくというのだから、他人事な気がしなくて力が入る。
この祓詞のなかに「瀬織津姫」という女神が登場する。
この方は「清めてくれる」神だ。
他にも清め役の神様が三柱いて「祓戸四神」とよばれている。

『古事記』にイザナギ・イザナミの神話が出てくる。
出産の際に命を落としたイザナミは黄泉の国へ行き、イザナギはその後を追っていく。黄泉の国でふたりは再会するが、イザナギが禁忌を破ってしまったために、

イザナミの朽ち果てた恐ろしい姿を見てしまい地上に逃げ帰る。その時、すっかり汚れてしまった自分の体を浄化するために、イザナギは禊をする。その時に生まれた神々が祓戸四神だと言われている。
言われている、というのは祓詞の中に「イザナギノミコトが禊をした時に祓の神が生まれた」と言ってるのだが、

そのイザナギの活躍を記した古事記の中には「祓戸四神」それぞれが書かれていないのである。(速秋津日命・はやあきつひめ はイズノメノ神ではないかと言われている)

何回も何回も「さくなだりに落ちたぎつ速川の瀬にますセオリツヒメという神~」と唱えていると

「そうか。瀬織津姫は速川の瀬にいらっしゃるのか~」という気分だけが残って、もう満足してしまっていたのだ。
しかし!ある方が「瀬織津姫ってどんな方ですか?」と聞いてくださってハタと気付いた。瀬織津姫って誰だろう?

瀬織津姫は「速川の瀬にます」と書いてある。速川は読んで字のごとし流れの速い川だろう。

ます、というのは「座る」ということ。流れの速い川にいらっしゃる瀬織津姫。川は海に通じる。瀬織津姫は罪や穢れを流し海まで運んでくれるのである。
神道の世界では、そもそも生命というのは力に満ちていて、それが何かの事情で曇ってしまうことで本来の力が発揮できないと考えている。

だからその調子の悪いところを「流し」たり「はら」ったりすることで力が戻ってくると考えている。
なので瀬織津姫は流してくれる。流された罪や穢れは海に飲み込まれ、飲み込まれたそれは地の底に吹き落され、地の底でさすらいさすらいしているうちに消えていくという。
なんだか、人間の作ったゴミを自然が浄化してくれてるみたいな話だ。

 

色々調べていくと、瀬織津姫の「流して清める」パワーというのはとても強いらしい。まるで「ノアの箱舟」
キリスト教の神が「地上を浄化する!大洪水で押し流す!」ということで大雨を降らせてノアの一族以外地上から消してしまったというお話があるけれど、

それに匹敵するぐらいすごく強い力を持っているらしい。
日本の神々で最も強い力をもっているのは天照大神だ。彼女こそ、神々の頂点に君臨する女神であり、その力を象徴する「日」なくして人間は生きられない。
瀬織津姫には天照大神の荒魂(あらみたま)だという説がある。

日本の神様にはふたつの顔があるという。恵みをも足らす面が「和魂」(にぎみたま)禍をもたらす面が荒魂だ。
台風は厄介だ。ひどい時には作物は全滅し、家屋は倒壊し、人々を傷つける。でも台風の雨は恵みの雨でもある。

日本の神は自然そのもの。その自然の恩恵と容赦なさ両方を受け止めた考え方が「荒魂」「和魂」だ。
瀬織津姫は天照大神の半身であり、光の後ろに必ずいる影のような存在なのかもしれない。

そんな彼女がなぜ古事記に登場せず、真の姿を隠されているのか?
隠さざるを得ない事情がある、もしくはあえて隠している、という風に見るのは感受性が強すぎるだろうか。

 

ところでアニメ映画で空前のヒット作となった『君の名は。』ご覧になりました?

このアニメに出てくるキャラクターは、瀬織津姫とその謎をモチーフに描かれている・・という説があります。
主人公の名前「ミツハ」が瀬織津姫の別名から取られているとか、そのミツハが先祖から受け継ぐ神社が「竜神」関係であったりとか。(竜神は水とつながりがありますね)
瀬織津姫の謎を知っているのは、『君の名は』の監督の新海誠さんかもしれない(^^)